スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

岩下さんおもろすぎ




岩下尚史(いわした・ひさふみ)

昭和36年生れ。新橋演舞場勤務を経て、初めて著した『芸者論 神々に扮することを忘れた日本人』で、第20回(2007年度)和辻哲郎文化賞を 受賞。他に『名妓の資格―細書・新柳夜咄』、『見出された恋 「金閣寺」への船出』など。

以下僕らのお稽古 webサイトより


せっかく何か景気のイイ話でもないかと思ってきたのに、笑われちゃったな……。「アナタ、そんなことでは、一生、お金に縁はありませんよ!」だって。一理あるけど。
 岩下さんは作家で、ボクは編集者。だけどまだ一度も原稿のやり取りはない。
 「おじさんは臭いから、朝シャンなんてダメです。あっつい湯で茹で上げてからお出かけください」と、おじさんの処世術をテレビで説いていたのが、ボクが岩下さんを見たはじめだった。物腰のしなやかさと、思い切った物言いに惹きつけられた。そのときは作家だってことも知らなくて、あとで『芸者論』という本を読んだ。テレビで見た冗談交じりの感じはまったくなく、重厚で美しい文章で、広い知識が奥ゆかしく綴られていた。
 すっかりギャップにやられて、企画もないまま会いに行った。それからありがたいことに、たまに観劇に誘ってもらったりしている。
 その岩下さん、なんだか最近、テレビによく出ている。「お師匠はん」とか「ハコちゃん」とかあだ名も付けられて。こんなに人気なら、編集者たるもの、お原稿を頂かない手はない。そう考えて、アポをとったのだが……。
 もうちょっと、生き方考えなきゃいけないなのかな。



編集・加藤(以下K) こんにちは。今、門のところで、着物姿の美人とすれ違いましたが……。

岩下尚史(以下I) 新橋の芸者衆ですよ。なんでも京都の芝居の帰りとかで、先生へ土産だと言って料理屋の重詰めをね……あゝ、ちょうど好いから、そこの水屋から小皿を出して、アナタもお取りなさい。

K はあ、はじめて見ましたけど、若いヒトもいるんですね。

Ⅰ えゝ、以前にくらべれば、あの子のような別嬪はずいぶん少なくなりました。アナタ、目の保養をしましたよ。

K それはそうと、岩下さん、最近テレビよく出てますねえ。

I おや、さまでなきものが、お目に留まりましたようで。

K ちょくちょく拝見してます。これは、今こそ、何か書いていただくときなんじゃないか、と思いまして。

I テレビに出ているから原稿を、なんて。今までも企画を持ちかけるタイミングはいろいろあったでしょうに。私への尊敬のかけらも感じられない物言いですね。

K いや、そういうわけじゃないですよ。

I いゝえ、私の眼には、その商売気が透いて見えます。

K す、すみません。

I まあねェ、ずいぶん大変な世の中になりましたから、アナタが算盤をはじく気持ちも分からなくはありませんけど。

K そうなんですよ、なかなかボクも大変なんですよー。

I ボクに限りませんよ、実際。この私だって、芸者衆の差し入れで、今夜は済まそうという段取りだもの。素寒貧はお互い様さ。

K えっ、こんなにアヤシイ…というか、素敵なお家にお住まいなのに…ですか?

I あいさ、構えはそれなりでも、何ごとも溜めない主義でね。たまに入っても右から左。われながら、さっぱりしたものです。

K はぁ。

I そもそも、アナタ、要はお金が欲しいってことですか? 私の原稿ではなくって。小遣いでもねだりに来なすったの?

K え……あ……。岩下さんのお原稿も、お金も、出来れば頂きたいです!

I ではお聞きしますが、お金が入ったら、何を買いたいの?

K えとー、おいしいものが食べたいですねえ、あとなんですかねえ。

I なんですって、美味いものが喰いたい? まるで子供だねェ……。だから、この重詰めをお取りよ。板前割烹の根元「浜作」の庖丁だよ。

K あっ! 貯金もしておきたいですね。

I オヤ、大きく出たね。貯金が聞いて呆れるよ。おほほほほ。

K ……。

I 貯金なんてね、腐るほど金のある人のすることですよ。またね、億と数える額面でなければ、貯蓄とは言えません。それに、アナタの言う貯金なんて、将来、何かに使うことを前提で、わずかな稼ぎの中から、いくばくかのものをヨケておこうと云うつもりなのでしょう? 私に言わせれば、それが、そもそもの料簡違いさ。

いゝですか? 貯金なんて云うのは、金が金を生むっていうことに、ある種の官能を感じる変人だけがやることなんです。そういう人たちは、初手から、貯蓄をあとから崩して使おうなんて気はさらさらないんです。金持ちになろうなんて人がたは、美味いものを喰おうとか、贅澤をしようと思って金を貯めると思ったら、大間違いさ。筋目たゞしい金持ちと云うものは、銀行の通い帳の数字が嵩むこと自体が目的で、そこだけに喜びを感じるんです。云わば、実生活には何ンの関係もない、数字の上での満足であり、貯金そのものが趣味なんだね。

K でも、病気になったときとか心配じゃないですか。

I あゝ、なるほど、アナタがおっしゃる貯金と云うのは、それッぱかりの金額なんですか? たとえば入院の費用なら、たかだか200万か300万の話でしょう? そんなものを、たいそうな、「貯金」とは申しません。それはね、銀行に預けるまでもない、自分の家の箪笥や財布に入れて置く金額で、「生活費」と言うべき筋のものです。年寄りじゃあるまいし、それしきのものを後生大事に思って、自分には貯金があるから、イザと云うときに安心だなんて思っていては、気持ちに弛みが出て、ロクなことはありはしないよ。

K なんか、不安じゃないですか。

I 不安なんて、生きていれば、あたりまえじゃありませんか! 一寸先は闇の世の中に、たかが、ナン百万くらいの銭、イザと云うときには、それこそ焼石に水で、なんの役にも立ちはしませんよ! だいたい今の若さで、アナタ、そんな小さい気休めを求めなさんな。日々、気を大きく持って、身なりを整え、喰いたいものは我慢せず、社交も儀礼も心得て、見栄の場所では銭を惜しまず、きれいに遣って、豊かな気分でお暮らしなさい。なあに、その翌月の生活費だけはまかなえる程度のものを戸棚に入れて置くだけで、何があっても、その一ト月、ガセイに働けば、どんな世の中になっても、飢えることはありませんから。

K とはいっても、お金があったらいろんなこと出来そうじゃないですか。

I 「出来そうじゃないですか」なんて、他人ごとのように言っているくらいじゃあ、ロクな稼ぎは出来ないね、おほほほほ。

しかし、実際には大きな金の使い方を知りもしない人ほど、金が欲しい、世の中は金だ、なんて言うのが癖のようですね。

でもね、これまで、日本で指折りの富豪と呼ばれるオジサマたちの浮き沈みを見てきましたがね、みなさん、お爺さんになると哀れなものですよ。おしなべて、わびしいし、さびしいし…案外、世の中は公平に出来ているものです。えゝ、どんなに物持ちでも、老いの苦しみから逃れることは出来ません。だからさ、金さえあればなんて、無益な妄想に縛られては悔やんだり、自信をなくしたりして、それこそ、一生を通じての大損ですよ。

K でもー、岩下先生、お金がなくってとっても大変になっちゃうことだってあると思うんですけど。

I どうも、アナタに限らず、近ごろの流行り言葉の「想定内」と「想定外」の二つきりで、神のみぞ知る世の中を判断しては、やけに脳天気だったり、むやみに不安がったり……。私などから見ると不思議でなりません。金に困ったならば、それこそ汗みづくになって、がむしゃらに稼げば好いのです。それでも、にっちもさっちもいかないのであれば、他人様に頭を下げて、協力を願うことですね。それでも助からない場合は、これはもう、自分には人徳も運もないものと、それを一期にあッさりと、あきらめるほかはないのです。それが世の中です。

それほどムズカシイ世渡りに、たかが、ナン百万かの貯金なんぞ、なんの役にも立たないことくらい、もう、アナタだって分かっても好いお年頃だと思いますがね、おほほほほ。

K ……。

I 三島由紀夫が言ったように、男の盛りは、せいぜい四十五歳まで。それより先に広がる光景は、ぞっとするほど荒涼たるものですよ。私も五十になりましたから、身に染みているところです。ときに、アナタも三十におなりでしょ?

K はあ。

I まだ、間に合います。私のような、天地間無用の世捨て人にならないように、それこそ、瞬きする間も惜しみなさい、加藤君。日々の暮らしがそのまゝ、お稽古ですよ。さあ、その前に、お箸を取って、お好きなものを、おあがんなさい。



スポンサーサイト

Trackback

Comment

Post a comment

Secret


プロフィール

だいすけ@

Author:だいすけ@
藤井大介(ふじい だいすけ)
JB TOP50メンバー
琵琶湖バスフィッシングガイド
バスプロトーナメント活動中。

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

最近の記事

最近のトラックバック

FC2カウンター

QRコード

QRコード

月別アーカイブ


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。